6.逸脱および中断

事例1 帰宅途中、通勤経路上にあるスーパーマーケットに夕食用の食料品を購入するために立ち寄り、そのスーパーマーケット内で被災した事例
事例2 退勤途中に理髪点に立ち寄って散髪した後に、道路上で転倒し被災した事例
事例3 退勤途中に、通勤経路上の喫茶店で同僚とコーヒーを飲んだ後、通常の通勤経路上を歩行中に交通事故にあい被災した事例
事例4 マイカー通勤者が通勤経路上にあるガソリンスタンドに給油のために立ち寄った際に被災した事例

事例1  帰宅途中、通勤経路上にあるス−パ−マ−ケットに夕食用の食料品を購入するために立ち寄り、そのス−パ−マ−ケット内で被災した事例

@  災害の発生状況

 被災労働者は勤務を終えて帰宅する途中、自宅近くの通勤経路上にあるス−パ−マ−ケットに立ち寄り夕食用の食料品を購入し、同ス−パ−マ−ケット内の階段を降りるとき足を踏み外し被災したものです。

A  認定のポイント

 通勤経路上にあるス−パ−マ−ケットで食料品を購入する行為が「中断」又は「ささいな行為」のいずれかに該当するかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

 労働者が通勤途上で行う私的な行為については、通勤行為に付随して誰でもが行うような「ささいな行為」を除き、一般的には「逸脱」又は「中断」として取扱われることになります。

 本件のように通勤経路上にあるス−パ−マ−ケットで食料品を購入する行為は、「ささいな行為」には該当せず、通勤行為の「中断」と評価されることになります。食料品の購入は、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当しますから、通常の通勤経路に戻った後は再び労災保険上の「通勤」として取扱われることになりますが、本件の場合には災害発生時はまだ「中断中」であり、通勤災害には該当しないと判断されたものです。

事例2  退勤途中に理髪店に立ち寄って散発した後に、道路上で転倒し被災した事例

@  災害の発生状況

 被災労働者は退勤途中に通勤経路上にある理髪店に立ちより、約1時間かけて散髪を行った後再び帰途につき自宅に向かった際、道路上で誤って転倒し被災したものです。

A  認定のポイント

 通勤途上において、散髪のため理髪店に立ち寄ることが、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当するかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害として 認められます

 「日常生活上必要な行為」とは、本人又は家族の衣・食・住、保健・衛生等日常の家庭生活を営むうえで必要な行為であって、所要時間も短時間である等日用品の購入と同程度に評価できる行為を意味しています。本件のように労働者が定期的に理髪をすることは、その所要時間も一時間程度であり、一般に日常の家庭生活に必要な行為と評価されますので、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当することになります。

 したがって、本件の場合には、「日常生活上必要な行為」を終え、もとの合理的な経路に戻った後に災害が発生しているところから、通勤災害として認められたものです。

事例3  退勤途中に、通勤経路上の喫茶店で同僚とコ−ヒ−を飲んだ後、通常の通勤経路上を歩行中に交通事故にあい被災した事例

@  災害の発生状況

 被災労働者は同僚とともに退勤する途中、通勤経路上にある喫茶店に立ち寄り、コ−ヒ−を飲みながら約40分間雑談し、その後喫茶店を出て通常の通勤経路を自宅に向かって歩いていたところ、交通事故にあい被災したものです。

A  認定のポイント

 喫茶店において約40分間コ−ヒ−を飲みながら同僚と雑談していたことが、「ささいな行為」又は「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当するかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

 労働者が通常通勤行為に伴って行う「ささいな行為」とは、通勤経路上においてのどの渇きをいやすためごく短時間ジュ−スやお茶等を飲むような場合であり、喫茶店でコ−ヒ−を飲みながら約40分間にもわたって腰を落ち着けて雑談するような行為は含みません。

 また、「日用品の購入その他これに準ずる行為」とは、日常の家庭生活を営むうえで必要な行為を意味していますから、喫茶店で同僚と雑談するような場合には該当しません。

 したがって、本件の場合には、通勤行為を「中断」した後に被災したということになりますから、労災保険上の「通勤災害」とは認められないことになります。

事例4  マイカ−通勤者が通勤経路上にあるガソリンスタンドに給油のために立ち寄った際に被災した事例

@  災害の発生状況

 マイカ−通勤者が、車のガソリンが少なくなっているのに気付き、通勤経路上にあるガソリンスタンドに給油のため立ち寄った際に、乗用車から降りようとしてドアに指をはさんで負傷したものです。

A  認定のポイント

 マイカ−通勤者が通勤途上でガソリンを給油することが「ささいな行為」に該当するかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害として 認められます

 マイカ−通勤者が、通勤経路上又は通勤経路近くのガソリンスタンドで給油することは、通勤を継続するためには必要な行為であり、通勤に随伴する行為と認められますし、給油に要する時間も一般にはごく短時間ですから、通勤に伴う「ささいな行為」として取扱われることになります。

 したがって、本件の場合には「中断中」に被災したことにはなりませんので、労災保険法上の「通勤災害」として認められたものです。