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共働きのマイカ−通勤者が、同一方向にある妻の勤務先を経由して自らの勤務先へ向かう途中で交通事故により被災した事例 |
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電車通勤している労働者が会社から退勤して自宅へ向かう際、最寄りのA駅ではなく、会社からA駅までの距離よりも遠いB駅まで徒歩で向かう途中、道路上で転んで被災した事例 |
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大雨により浸水している道路を通行して帰宅する途中に被災した事 |
事例1 共働きのマイカ−通勤者が、同一方向にある妻の勤務先を経由して自らの勤務先へ向かう途中で交通事故により被災した事例 |
@ 災害の発生状況
被災労働者は共働きであり、お互いの勤務先が近いためいつも夫が運転するマイカ−に妻が同乗して夫婦一緒に出勤をしていましたが、被災当日も夫は自分の勤務先から約800メ−トル離れた地点にある妻の勤務先で妻を降ろした後、自らの勤務先に向かう途中に交通事故にあって被災したものです。
A 認定のポイント
共働きのため日常的に妻の勤務先を経由して出勤している場合、迂回する経路は「合理的な経路」に該当するかどうかがポイントになります。
B 結論及び理由
通勤災害として 認められます。
通勤は「住居」と「就業の場所」との間で行われるものですから、夫が自宅と自らの勤務先を結ぶ最短の経路から迂回して妻の勤務先まで妻を送っていくような場合には、自宅と自らの勤務先を結ぶ最短の経路をはずれた時点で夫の通勤は終了し、それ以降は単に夫が妻をその勤務先まで送っていく行為であるとする見方も成り立ち得ます。
しかしながら「合理的な経路」は、労働者一人について一つだけしか認められないものではなく、また最短距離の経路だけしか認められないというものでもありません。もちろん時間的、経済的に最短の経路が「合理的な経路」に該当することは当然ですが、それ以外でも一般的に利用することが考えられる経路があれば「合理的な経路」に該当することになります。 本件の場合には共働きの夫婦で、しかも夫と妻の勤務先が同一方向にあり、更にお互いの勤務先もかなり近く、自動車であれば経路を迂回するために要する時間も数分程度であるところから、そのような立場にある者であれば夫婦の一方が自らの通勤途上で他方を送っていくことは一般的に行われるものと考えられるため、自宅から妻の勤務先を経由して夫の勤務先へ向かう経路も「合理的な経路」として認められるものです。
なお、共働きの夫婦であってもお互いの勤務先が離れており、迂回するために要する時間が相当かかるような場合には、迂回している経路については「合理的な経路」には該当しないことになりますので注意が必要です。 本件のような事案が実際に発生した場合には、被災労働者の自宅周辺の公共交通機関の運行状況等の個別事情を総合的に検討することになりますが、最終的にはあくまで被災労働者本人の通勤経路として合理性が認められるかどうか、換言すると、その経路が一般的に利用すると考えられる経路の範囲に含まれるかどうかが「合理的な経路」に該当するかどうかの判断の分かれ目になります。
事例2 電車通勤している労働者が会社から退勤して自宅へ向かう際、最寄りのA駅ではなく、 会社からA駅までの距離よりも遠いB駅まで徒歩で向かう途中、道路上で転んで被災した事例 |
@ 災害の発生状況
被災労働者(女性)は通常会社から徒歩で約10分の距離にあるA駅を利用して通勤していましたが、会社とA駅を結ぶ経路は夜間はほとんど人通りがなくなり、しかも街灯も設置されていないため無用心であるという理由で、残業で遅くなった場合に限り、会社から住宅街を経由して徒歩で約20分の距離にあるB駅を利用して帰宅していました。被災当日も残業で帰宅が午後9時頃になったため会社からB駅へ向かう途中、転んでしまい負傷したものです。
A 認定のポイント
日常的に用いている経路より遠回りになる経路が、「合理的な経路」として認められるかどうかがポイントとなります。
B 結論及び理由
通勤災害として 認められます。
労働者が通勤に用いる経路は、常に最短距離の一つだけと限られているわけではなく、労働者が通勤のために通常利用するであろうと認められる経路であれば、特段の合理的な理由も無く著しく遠回りとなるような場合を除き、複数の経路のいずれもが「合理的な経路」となります。
本件の場合には、日常用いる経路は夜間には人通りもなくなり身の危険を感じる等の理由から、残業をした場合には出勤の際とは異なる経路を通って帰宅していたものであり、こうしたケ−スは女性に限らず一般的に認められるものです。遠回りする程度も合理性を失わせるほど著しいものではないところから、会社からB駅までの経路も「合理的な経路」となります。
なお、遠回りする事情は、身の危険に限られる訳ではなく、一般的にあり得ると判断されるようなものであれば良いことになります。例えばA駅には普通列車しか停車しないが、B駅には快速列車が停車するため、遠回りをしてB駅を利用する方が結果的に通勤時間が短くなるといったようなものでも差し支えありません。
@ 災害の発生状況
被災労働者は台風のため近くの河川が氾濫し、道路上を約50センチメ−トルの深さまで浸水している箇所を徒歩で通過しようとして、流れにのみこまれ被災したものです。
なお、被災箇所周辺では同僚労働者等も浸水箇所をわたっており、特に通過禁止措置などはとられていませんでした。
A 認定のポイント
大雨により浸水している箇所をあえて通行する行為に合理性が認められるかどうか、被災箇所が「合理的な経路」上といえるかどうかがポイントになります。
なお、実際の事例においては、通勤起因性の判断、すなわち通勤に通常伴う危険がたまたま発生した大雨を契機として具体化したものといえるかどうか等といった観点からも検討される必要があります。
B 結論及び理由
通勤災害として 認められます。
被災者が通行した道路は台風のため深さ50センチメ−トル程浸水していたものですが、周辺を同僚労働者等も通行していたこと、また通行禁止措置なども特段とられていなかったこと、被災者は日常的に当該経路を利用しており地理的にも詳しかったこと等から総合的に判断して、浸水した経路を通過した行為は合理性を失っておらず、「合理的な経路」に該当するとされたものです。
なお、たとえ帰宅のための最短経路であったとしても、一般に人々が通行に用いる経路とは認められないような場合には、「合理的な経路」としては取扱われないことになります。