2.就業に関して

事例1 出勤途中に交通事情で遅刻しそうになったため、会社に連絡をして年次休暇を取得し自宅に引き返す途中で被災した事例
事例2 通勤に使用しているマイカーのライトの消し忘れに気づき、いったん会社の事務所へ到着した後に再び駐車場へひき返す途中の公道上で被災した事例
事例3 会社から自宅へ帰宅途中に、再び会社へ戻る報告の道路上で発生した交通事故による死亡災害の事例
事例4 業務終了後、事業場施設内で労働組合の用務を行った後に帰宅する途中の災害
事例5 業務終了後、事業場施設内でサークル活動を行った後に帰宅する途中の災害
事例6 マイカー通勤者が路面凍結といった事態を予測して、通常の出勤時刻とかけ離れた時刻に出勤する途中の災害
事例7 昼休み時間中に昼食をとるために自宅にもどり、食事を終えて事業場に戻る途中に交通事故にあって被災した事例
事例8 就業の途中に私的な理由で自宅へ戻り、用済後再び事業場へ向かう途中の災害

事例1  出勤途中に交通事情で遅刻しそうになったため、会社に連絡をして年次有給休暇を取得し、自宅に引き返す途中で被災した事例

@  災害の発生状況

  被災労働者は通常通り自宅を出発しマイカ−で会社へ向かいましたが、当日は悪天項のため道路が渋滞し始業時刻に大幅に遅れそうになったため、途中の公衆電話で会社へ連絡し年次有給休暇を取得する旨申し出て上司の承認を得た後に自宅へ引き返す途中、交差点で対向車と衝突し負傷したものです。

A  認定のポイント

 通勤のため会社へいったん向かったものの途中で引き返した行為がどのように評価されるか、又年次有給休暇を取得したことが通勤遂行性の有無に影響を与えるか等がポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

 公衆電話で会社へ連絡をして自宅へ引き返す前までは実際に業務に従事するために会社へ向かっていた訳ですから通勤と認められることに疑問の余地はありませんが、本件のように労働者の自主的な意志によって年次有給休暇を取得し通勤行為を途中で中断して自宅へ引き返した場合には、自宅へ引き返した時点では被災当日就労しないことが確定していることから、自宅へ引き返す行為に就労との関連性を認めることはできません。なお、年次有給休暇を取得した日には会社より所定の手当が支払われることになりますが、こうした事情は就業との関連性にはなんら影響を与えません。

事例2  通勤に使用しているマイカーのライトの消し忘れに気づき、いったん会社の事務所へ到着した後に再び駐車場へひき返す途中の公道上で被災した事例

@  災害の発生状況

 被災労働者は通勤のためマイカ−で自宅を出発し、会社事務所と公道を挟んで向い側にある会社指定の駐車場に車を停め徒歩で会社事務所に入りましたが、出勤してきた同僚から車の前照灯が点灯した状態になっていることを知らされ駐車場に引き返す途中、公道を横断する際に走行してきたトラックにはねられ負傷したものです。

A  認定のポイント

 いったん会社事務所に入り外形的には出勤行為は終了していると認められる場合において、本件のように駐車場へ引き返すような行為を「通勤」と認めることができるかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害と 認められます

 出勤は一般的には労働者が事業主の支配管理下あると認められる事業場構内(会社の門の内側など)に到着した時点で終了するものですが、本件のようにマイカ−通勤者が車のライトの消し忘れなどに気付き駐車場に引き返すことは一般にあり得ることであって通勤とかけ離れた行為ではなく、時間もほとんど経過していないことからこうした場合はいったん事業所構内に入った後であっても通勤途上の災害として取扱われます。

事例3  会社から自宅へ帰宅途中に、再び会社へ戻る方向の道路場で発生した交通事故による死亡災害の事例

 @  災害の発生状況

 被災労働者は被災当日は午後6時頃に業務を終え午後6時10分頃に会社を出て通勤に用いているマイカーで通常の通勤経路を自宅に向かって出発しましたが、午後6時50分頃交差点付近でトラックと衝突し死亡したものです。

 災害発生時、被災労働者が運転する車の進行方向は自宅へ向かう方向ではなく、逆方向の会社へ引き返す方向に向かっており、その経路は自宅と会社との間の合理的な通勤経路でした。

 また被災労働者が死亡しているため会社を出た後どのような目的で災害発生地点に至ったかは不明ですが、

 イ、被災者の服から会社事務所のシャッターの鍵が発見されたこと。

 ロ、被災労働者はシャッターの鍵の保管責任者であり、毎日所定の場所  に保管してから帰宅していたこと。

 ハ、被災労働者には災害発生現場付近に立ち寄るような事情は認められ  なかったこと。

 ニ、会社を出てから約40分が経過した時点で災害が発生していますが、会社から災害発生場所までは通常25分程度で到着すること。

等の事情を総合的に勘案すると、被災労働者は帰宅途中に会社のシャッターの鍵を保管するのを忘れたことを思い出し会社へ引き返そうとして被災したものと推測される事案です。

A  認定のポイント

 シャッターの鍵を会社に返そうとして帰宅途中に会社へ戻る行為が、

「就業に関し」行われたものと認められるかどうか、又被災労働者が死亡しているため事実関係を特定できないことが就業との関連性の判断に影響を与えるかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害と 認められます

 被災労働者が死亡しているような事例では特定された事実関係を基に一部を推測によって判断することもやむを得ないものであり、本件の場合被災労働者が退勤の途中から再び会社の方向へ進行した行為を通勤行為の逸脱中断であるとする積極的な事由が見出せず、むしろシャッタ−の鍵を会社に返す目的で会社へ引き返す途中であったとするのが合理的な推測と考えられます。又、一般的に出勤又は退勤の途中において業務に関連するもの(仕事上の書類、仕事の申し送り、作業用具等)又は通勤に関連するもの(定期券等)を忘れたために自宅又は就業の場所へ引き返すことはあり得ることであり、そのような場合には就業との関連性が認めれるのが通常であることから、本件においてもシャッタ−の鍵を会社に返す目的で会社へ引き返す途中であったと推測されることから就業との関連性が認められ通勤災害とされたものです。

事例4  業務終了後、事業場施設内で労働組合の用務を行った後に、帰宅する途中の災害

@  災害の発生状況

 被災労働者は所定労働時間(午前8時30分〜午後5時)を越えて午後7時まで残業を行い、引き続き事業場施設内において労働組合の用務(労働組合で用いる資料を作成する作業)を午後7時10分より午後8時30分まで行った後、すぐに事業場を出て通常の通勤経路を自宅へ向かって歩行中に乗用車にはねられ負傷したものです。

A  認定のポイント

 業務終了後、事業場施設内で行った労働組合用務のために費やした時間が社会通念上就業と帰宅との直接的関連性を失わせると認められるほど長時間といえるかどうかがポイントとなります。

B  結論及び理由

 通勤災害と 認められます

本件の被災労働者が業務終了後に事業場施設内に居残っていた時間は1時間30分であり、この時間は社会通念上就業との関連性を失わせると認められるほど長時間とはいえないため、就業と帰宅行為との間には直接的関連性が認められます。

事例5  業務終了後、事業場施設内でサークル活動を行った後に帰宅する途中の災害

@  災害の発生状況

 被災労働者は午後5時10分まで就労(所定労働時間は午前9時〜午後5時)した後に、午後5時30分から従業員で構成している茶道クラブの活動に参加し、会社内の会議室において茶道のけいこを行いました。

茶道のけいこは午後7時30分に終了し、その後着替えなどを行い午後8時頃退社して、通常の通勤経路を徒歩で帰宅する途中交通事故にあい被災したものです。

A  認定のポイント

 業務終了後、会社施設内で行ったサ−クル活動のために費やした時間が、就業と帰宅との直接的関連性を失わせると認められるほど長時間といえるかどうかがポイントなります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

 本件労働者が業務終了後に会社施設内にサ−クル活動等のために居残っていた時間は2時間50分であり、社会通念上就業と帰宅との直接的関連性を失わせると認められるほど長時間であると判断されるため、その後の帰宅については労災保険法第七条第二項にいう通勤には該当しないことになります。

事例6  マイカー通勤者が路面凍結といった事態を予測して、通常の出勤時刻とかけ離れた時刻に出勤する途中の災害

@  災害の発生状況

 被災労働者はマイカ−通勤をしていましたが、災害発生当日はその前日から雪模様の天候となったため、被災労働者は朝出勤する際に道路に積雪があったり路面が凍結していたりすると通勤が困難になることもありうると考え、所定始業時刻である午前8時より8時間も早く自宅を出て事業場へ向かう途中、通常の通勤経路上において対向車と衝突し負傷したものです。なお、被災労働者は事業場に到着した場合には、事業場の宿直室で始業時刻まで仮眠しょうと考えていたものであり、通常の通勤に要した時間は約30分間でした。

A  認定のポイント

 通常の出勤時刻とかけ離れた時刻に出勤する行為に就業との関連性が認められるかどうかがポイントとなります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

 本件の場合、通常の出勤時刻より8時間も早く自宅を出発したのは、積雪や路面凍結によりマイカ−通勤ができなくなることを予想したためですが、事業場に到着してから所定始業までの間に業務に従事する予定もなく、被災労働者はあくまで事業場の宿直室で仮眠するために自宅を通常よりも8時間も前に出発したものと判断されます。すなわち本件の場合には、業務に付くために自宅から就業の場所に向かったというよりも、むしろ自宅から一時的に変更した就寝の場所に向かったものと考えられ、所定始業時刻とかけ離れた時刻に出勤する場合には、社会通念上就業との関連性は失われるものと判断されます。

事例7  昼休み時間中に昼食を取るために自宅へ戻り、食事を終えて事業場に戻る途中に交通事故にあって被災した例

@  災害の発生状況

 被災労働者は正午から午後1時までの休憩時間を利用して、事業場から徒歩で約10分のところにある自宅に昼食をとるために戻り、食事を終えて午後零時45分に自宅を出て事業場へ向かう途中で乗用車にはねられ負傷したものです。

A  認定のポイント

 いったん事業場へ出勤した後に、昼食をとるために自宅と就業の場所との間を往復する行為に就業との関連性が認められるかどうかがポイントとなります。

B  結論及び理由

 通勤災害と 認められます

 通勤は一日について一回しか認められないものではなく、昼休み等就業時間の間に相当の間隔があって食事のためにいったん自宅へ戻り、再び自宅から事業場に向かうような場合には、午前中の業務を終了して自宅へ帰り、その後午後の業務につくために再び自宅から事業場へ向かったものと考えられるところから就業との関連性が認められます。

事例8  就業の途中に私的な理由で 自宅へ戻り、用済後再び事業場へ向かう途中の災害

  @  災害の発生状況

 被災労働者は通常通り出勤した後に、子供を歯科医院へ連れていくために上司の許可を得ていったん自宅へ戻り、その後治療が済んで子供を自宅へ送り届けた後に、再び自宅から事業場へ向かう途中で交通事故にあい被災したものです。

A  認定のポイント

 就業時間中に一時的に業務を中断して自宅と就業の場所との間を往復する行為が就業との関連性を有する通勤といえるかどうかがポイントになります。

B  結論及び理由

 通勤災害とは 認められません

  被災労働者が業務を一時中断して自宅へ向かった行為は、子供を歯科医院へ連れていくという私的事情に基づくものであり、また自宅と事業場との間を往復する行為は業務を終了したことにより行われたものではないところから就業との関連性は認められません。